基礎集中・臨床研修講座

効かせたい、と思うとどうしても力が入るものです。けれども、より大きく体を変化させるコツは、どうやら逆に、こちらの力を抜くことにあるようです。人の体に相対した時、力ずくで相手を変えようとすれば、力と力の競い合いになるでしょう。より力の強いものが勝つ。そんな関係になるでしょうか。しかし、現実はそうでもないようです。弱肉強食と以前は考えられていましたが、現実は適者生存であったりします。例えは少し違いましたが、要するに最適な刺激が、最大の効果を導く、ということになるのです。その上、その最適な刺激というのが、実は極めて小さいものだとしたら、どうでしょう。体を治療するという分野は、多岐に渡ります。手技から道具を使うものまで、千差万別ですが、共通して言えることがあります。それは、治療の名人と言われる人たちの治療は、一様に弱刺激であるということ、刺激部位、刺激時間、どれをとっても、常識的には、考えられないような微妙な調整によって、結果的にも常識的には考えられないような成果を上げているということです。そ
れを真の最適刺激と言うのでしょう。鍼灸を体にすれば、
良いことが起こるというのはわかっています。これは誰がやっても同じです。学生であろうが、アルバイトであろうが、そこに鍼灸をすれば、何か変わります。これは鍼灸という道具が持っている力です。どうやら多くの人は、この道具の力のことを鍼灸治療だと勘違いしているようです。でも、これは簡単です。学校で習うまでもありません。その証拠にバイト君でも出来ています。これをもって鍼灸が出来る。ということにはならないのは、明らかです。まあ、多くの学生がこれで、自分は鍼灸が出来ると思い込んでいるのは事実ですが。さて問題はその先です。どの世界でも、人より秀でる人の仕事は、何か違うものです。同じ材料、同じ道具を使っていても、結果出来上がったものは、天と地ほどの差が生じてしまいます。これまで述べてきたように、肉体的な力ではないことは明らかです。単純に力の問題であれば、年齢と共に効果が落ちていっても不思議ではないですが、実際は逆です。ここで押さえておくべきことは、力ではない。という一点です。この仕事をしていて、多くの人が
陥る罠に、より効果的な治療を求めて徐々に強い刺激の治療に移行していくことがあります。
しかしこれは際限がありません。患者の方も次々に刺激に慣れて鈍麻していくからです。これは私達から見れば、精気が虚して冷えが増大していることに他なりません。最大の効果は、最大の刺激によってもたらされるのではありません。最適な刺激こそが、最大の効果をもたらすのです。では、最適な刺激とは、どうやって知ることが出来るのでしょう。それが指標の役割なのです。

今日の基礎集中講座より