北海道セミナーを開催します②

北海道セミナーの内容は、「基本治療」が中心に組み立てられています。
積聚治療において最も重要な治療過程が基本治療です。
これがうまく機能するようになると、治療の幅が大きく広がります。
運動器疾患だけでなく、内臓疾患やメンタル面の治療も出来るようになります。
そこで今回は、最近鍼灸院にも多く来院するようになった
「うつ病」の症例をご紹介します。

【うつ病・40代・男性】
ある会社の重要なポストにいる方です。
大柄な体格の割には、小さな声でお話をする方で
印象に残りました。
お話を伺うと、3年ほど前から頭にモヤがかかった状態で、
スッキリしないとのことでした。
気力がなく、記憶力の低下も目立つそうです。
逆上せた感じが辛いとのことでした。

2年ほど前からは眩暈や動悸、
心臓部の痛みも出るようになりました。
病院を受診したところ、検査では特に異常が出ず、
うつ病と診断されました。

食欲はありますが、下痢をしており、
また不眠症状がありました。
事故歴、手術歴等はありませんでした。

触診すると全体的に冷えていて、
足は特に冷えていました。
そして首や肩が大変凝っている状態でした。
この症状はうつ病の方に大変多く診られます。

脈は84回/分でした。
六部定位脈診では右手の関上と尺中が陰実で、
腎と肝がとても虚していました。
また腹診では、みぞおちに強い圧痛がありました。

心積心虚証、第3方式で治療を行ないました。
接触鍼、脈の調整を行い、背部兪穴を4穴補った後、
心積(みぞおちの圧痛)が残ったため、
左の郄門穴を補いました。
ここまでが基本治療です。
その後さらに補助治療を加え、
初診の治療を終えました。

治療時間は20分程です。
患者さんはのぼせた感じや
肩こりが楽になったと仰っていました。
この後、
治療は週1回のペースで行うことにしました。

2診目-―。
初診の時より顔のむくみが取れ、
スッキリした印象を持ちました。
前回の治療後、久しぶりにぐっすり眠れたそうです。
のぼせた感じが楽になったとのことでした。

触診すると、体の冷えが少し取れていて、
首や肩の凝りが減っていました。
陰実脈も取れていて、
肝腎の虚の程度も良くなっていました。
心積(みぞおちの圧痛)も弱くなっていました。
全体的に改善傾向がみられました。

治療は初診同様、心積心虚証で第3方式を使いました。
背部兪穴を4穴補ったあと、
補助治療を加え2診目の治療を終了しました。
治療時間は20分弱でした。

3診目-―。
頭がスッキリし、のぼせた感じが取れたとのことでした。
動悸もなくなり、眩暈も出ていないそうです。

触診すると、体の冷えも大分良い状態でした。
首や肩の凝りもやわらいでいました。
脈診で肝腎の虚も大分取れています。
みぞおちの圧痛もなくなり、多少硬さが残る程度です。
治療は前回同様に行いました。

第4診目-―。
自覚症状は全て治まり、
心積もほとんどない状態になっていました。
表情も明るくなり、特に問題ない状態でしたので、
前回同様の治療を行ない、今回で治療は終了となりました。

今回の症例の原因は、
厳しい経済状況の中で多大な仕事をこなし、
またリストラなどの精神的に厳しい職務を行ってきた結果、
心も体も疲れきり、
精気が虚して「冷え」を生んだことが大きいと思います。

冷えは神経性の「気」を乱し、
特に自律神経系の機能に影響したようです。
そのためにのぼせ、不眠、眩暈、動悸、
首肩こり等の症状が出現したと考えられます。
そのような状態が長く続き、うつ病を発症したのでしょう。

うつ病は人間関係の悩み、事業の失敗、過重労働、
環境の変化、膠原病などの疾患、薬剤等、
様々な原因から起こります。
積聚治療はどの原因から発症したうつ病にも一定の効果を示しますが、
特に過重労働などの極度に疲労したことで発症するうつ病には
とても良く効きます。

一方、タイプAと呼ばれる性格や不適切なスキーマ、
レジリエンスの低さなど、パーソナリティーの問題から
うつ病を発症しているケースも多々あります。
このような場合には、積聚治療を行なっても
思ったような改善が得られないこともあります。
また自殺企図を持ったケースもあることから、
BDI(Beck Depression Inventory)などで
事前に心理アセスメントを行い、
場合によっては心理専門家へ橋渡しすることも必要でしょう。

近年サラリーマンでうつ症状を訴えて来院する方が増えています。
日本の景気が悪くなった頃からその傾向はありましたが、
「Lehmanショック」以降、急激に増えている印象です。
過重労働から発症するうつ病に、
効果的な積聚治療を学ぶ意義は大きいと思います。