積聚治療の鍼が、なかなか入りません。今日はそんな質問です。まず技術的な側面から見ていきましょう。押し手の形はしっかりできているでしょうか。押し手は、皮膚を開き、なおかつ鍼の進む方向性をつけるガイドの役割をします。ここで左右のバランスの悪い押し手であれば、皮膚面に対して垂直の鍼の角度を作ることができません。これでは、うまく刺し手の力を鍼先に伝えることができなくなってしまいます。実際、鍼を刺すために必要な力は、ごく弱いものです。柔らかい銀の鍼が曲がらないほどの力ですから、ほんの少しのロスで、鍼先へ伝わる力がゼロに近くなってしまいます。これではいつまでたっても鍼が入ることはありません。また、ただ鍼を入れることだけが目的であれば、無理矢理押し込むこともできます。けれども、その事によって精気が補われ病の治癒に繋がるかどうかは、全く関係のないことなので、刺入の仕方には注意が必要です。
では、もう少し別の角度からも見てみることにしましょう。積聚治療の鍼は先が丸く入りにくい鍼だと言われています。他の鍼と比較した結果、鍼先も鍼のコシも入れにくい鍼ということになるからでしょうか。実は、ここがポイントなのです。例えば、こういうことがあります。鍼の勉強を始めたばかりの学生に、この鍼の刺し方を教えると、以外にすんなりと鍼を刺します。ところが鍼の経験年数が上がっていくごとに、鍼が入らなくなっていくのです。なぜでしょうか。ここではその答えを先程言った、他の鍼と比べて、という言葉にあると考えてみます。上級生と下級生の違いは、鍼灸界における常識量の違いであると言うことができます。単純な練習量だけの違いであれば、上級生が必ず有利になるはずです。さらに言えば、私自身この鍼が特別入りにくい鍼だとは思っていないのです。鍼が入りやすい、入りにくい、という違いは、鍼にあるのではなく、人の体の方にあるからです。この鍼は体のどこにでも入る鍼であって、入らないという常識にはあたらないのです。つまり、入らな
いという常識を受け入れて、
その結果を作り出しているのは自分の方だということを理解する必要があります。痛いところに鍼をしないといけないという常識、不治の病という常識、鍼灸では治せないという常識、いずれも自らが受け入れて作り上げているものであると言えます。それを越えることが、求められます。ということで、今日の質問の答えは、積聚の鍼を刺すためには、鍼は刺さないといけないという常識を越える必要がある。 というお話です。
今日の基礎集中より